音響監督・鶴岡陽太氏の「演出」を分析してみる

 鶴岡陽太さんとは、東京都出身のアニメーション音響監督です。当初は音楽プロデューサーや制作助手を務めていましたが、独立後には音楽監督として多くのアニメーション作品に携わっています。近年では企画や製作への参加もあり、アニメという文化の盛り上がりからその知名度は今も加速を上げて上昇しているでしょう。

まず音響監督についてですが、専門的でありながら幅広い仕事があります。BGMのつけ方やアフレコ現場における声優とのディスカッション、音による演出等、聴覚が与える効果を意識しながら丁寧に進行していくのです。

音響監督はそのアニメーションの全話のBGMやサウンド、効果音において目的や方向性を作曲家や声優に指示したり問題共有を行います。「演出」とは視聴者の方へ伝えたい事をどのように表現させるかを決め、最後までスタッフに指示しながら進めていくのです。音響面での最高責任者とも言える役職であるため、音だけでなく映像のチェックも欠かさず行わなければなりません。

また監督としての重要な現場はアフレコです。アフレコとはアフターレコーディングの略で、完成されたアニメーション映像を上映しながら声を合わせる作業です。作品監督との打ち合わせの上、脚本に目を通してからアフレコ現場へ入ります。

行われるスタジオには声優がマイクを通して声を当てて行くスペース、音響監督や録音技師や監督がチェックするためのスペースと2つに分かれています。

監督は声優の演技に対してOKかNGかどうかを判断し、アドバイスや具体的な指示を出すのです。音響と聞くとサウンドや効果音、音楽といった部分を連想しますが、声の出し方や声優を束ねるのも重要な仕事の一つ。

このアフレコですが、配役を決める際にはオーディションが行われます。有名声優を起用し注目を集める事も多いですが、若手実力者が世に名前を広げるチャンスでもありますよね。そんなオーディションの手配や決定権があるのも音響監督です。イメージ力や発言力が大きいため、誰を使うかという判断は作品の将来を左右するほどの重要な問題でしょう。

そして鶴岡さんが配役として採用する基準は「作品の持つ面白さの方向性に貢献してくれそうか」で決まると言います。コンセプトへの理解を深める事が出来るか、視聴者に伝える内容を思うままに表現してくれるか。ここを実現できそうな人材を求めているのですね。

そんな重役をこなす鶴岡さんの特徴ですが「声優陣に具体的な指示を出さない」という事で有名です。数々の人気作品を手掛けており、その名前は業界でも認知されています。

まず作品の一つでもあるのが『涼宮ハルヒ』シリーズです。敢えてBGMをつけなかったケースがあるのですが、その意図というのは作品が何を伝えたいか?という課題に基づき判断しています。コンセプトを大切にし、個々のシーンに劇伴がマッチしているのかを重要視せずに作り上げました。

また彼特有の方向性というのは、ストーリー内容から演出を逆算して考えるという事です。この『涼宮ハルヒの消失』の演出には、消失というテーマに仕掛けられたトリックがあり、その伏線を音を使い表現しています。こちらの作品には表側と裏側にシチュエーションがあるのですが、表側のストーリーに合わせてBGMをつけた場合はポップで明るい音楽だったかもしれません。しかし見たまま感じたまま乗せてしまったら、視聴者が裏側を感じる事は無かったでしょう。展開を読めないのを避けるため、裏の要素を示唆させるよう重い音楽にしたり音声を無くしたのです。

そして鶴岡さんは「ダビング」による表現も大切にしています。主要としてはいないものの、環境音や効果音を上手く使う事で私達の日常生活とリンクさせるかのようなリアリティを持たせているのです。自然の景色や立ち並ぶ建物等、実際にあるような映像作りがされている作品の場合は、その現前性との整合性が肝心となります。川が流れる音だったり車のブレーキ音等、小さな積み重ねや音の違いによって視聴者を惹きつける効果を生み出しているのでしょう。

鶴岡さんが作り上げてきた音響演出には、その映像作品が持つ面白さやコンセプト、見る側に伝えるべき事について「どのように表現すれば良いのか?」という軸が通っています。BGMや効果音以外にも、ダビングやアフレコに目を向けてもその方向性はブレる事なく高い完成度で皆さんに届けられています。

音響監督という仕事は声優や歌手、脚本家と違って表舞台に立つ仕事ではないので、アニメファンでも知らない方が多いでしょう。しかし知れば知るほど奥が深いですよね。映像や音楽に限らず、物を作る世界は沢山あります。そのどれを取っても、あらゆる側面から支え合いながら一つの作品を完成させるのでしょう。アニメ市場が盛り上がっている昨今、鶴岡さんは欠かせないスタッフの一人として今後も活躍の場が増えていくはずです。